玉敷神社の狛犬を描く
今回の絵は埼玉県加須市近辺を散策したときに
見かけた石刻師:石川意至の彫った狛犬である。
以前、北本市界隈を回ったときに見た
石川意至の狛犬、その狛犬らしい狛犬に目を引かれ
一度、サムホールに絵を描いたことがある。
ちょこちょこっと描いたので、
あとから見ると、いまいち石川らしさの狛犬を
表現しきれてないかな、と思う。
石台に手を置いた普通の狛犬という感じである。
というわけで、ちゃんと石川意至さんの狛犬を
描こうと、今回、再び描いてみることにした。
すると、石川狛犬の中で何がいいかというと、
円熟期の頃と思われる大正時代の狛犬にした。
(なぜ円熟期と思われるかは次の項目参照)
加須市でも有名な「玉敷神社」の狛犬、
阿形のほうを描いてみた。
石川意至の狛犬
サムホールの須賀神社の狛犬を描いたあと、
その後、北本市近辺を巡り、さらに行動範囲を広げ
加須市や行田市あたりを見て回ってみた。
すると、石工「石川意至」の彫った狛犬を
数多く見かけるようになったのだ。
台座には、「加須市 石刻師 石川意至」と
彫られていることが多い。
加須市で活躍した石工さん。
普通は「石工」と彫るところを石川意至の場合は
必ず「石刻師」と刻んでいるのである。
なにか拘りがあるのだろう。
石工(いしく)である石川意至、
名字が「石川」(いしかわ)、石の字があり、
さらに名前も「意至」(いし)と読むことから
かなり石(いし)への思い入れの強い人だったのかも知れない。
そうとう屈強な意思(いし)をもった職人のように
想像するが、実際はどうだったのか分からない。
ちなみに、いままで見て回った石川意至の狛犬を
年代順に並べ、整理したので興味ある方は参照してください。
(すべて見て回って整理したので、手間かかりました^^;)
石川意至狛犬リスト
寺社名 (Google Mapにリンクしてます) |
住 所 | 制作年代 | 石工名 | 特 徴 |
荒木天満天神社 | 埼玉県行田市荒木2091 | 明治38年3月 | 石川意至 | 阿狛犬の手元に子獅子が玉取り。吽狛犬の手元に子獅子。親は面長顔。 石川意至初期の狛犬。 |
天神社 | 埼玉県加須市牛重382-1 | 大正6年(1917)9月15日 | 石川意至 |
通常の尾流れ狛犬の二倍はありそうな毛量豊かな尾から流れる尾先は座の部分で湾曲してクルリと上を向く。阿狛犬は遠くの空を見つめ吠えているよう。子獅子は鞠を持ちながら親狛犬に負けじと吠えている。石川意至狛犬の中でも屈指の出来栄え。
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広田鷺栖神社(ひろたさぎすじんじゃ) | 埼玉県鴻巣市広田3814 | 大正7年(1918) | 石川意至 |
高い台座に座っている。直線的な顎の作り。両方とも子獅子で、吽狛犬の背中に子獅子乗り、足元の子獅子は暴れているように見える。
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玉敷神社 | 埼玉県加須市騎西552-1 | 大正8年(1919)11月3日 | 石川意至 | 阿狛犬は、鞠を持った子獅子の頭の上に手をのせる。吽狛犬の手元に子獅子。丁寧な造り。 |
関根神社 | 埼玉県行田市関根 | 大正8年(1919)11月15日 | 石川意至 | 吽狛犬は背中・手元に子獅子、阿狛犬は手元に子獅子。 |
花崎鷲宮神社 | 埼玉県加須市花崎2-29-3 | 大正9年(1920)4月15日 | 石川意至 | 阿吽とも玉取り |
日出安・駒形神社 | 埼玉県加須市日出安968 | 大正9年(1920)10月 | 石川意至推測 | 阿吽とも玉取り |
劔神社 | 埼玉県行田市斎条1255 | 大正11年(1922)1月1日 | 石川意至 | 阿の手元に子獅子が玉取り、吽は背中に子獅子、手元に子獅子 |
諏訪神社 | 埼玉県加須市上高柳52 | 大正11年(1922)4月 | 石川意至 | 阿吽とも玉取り |
若宮八幡神社 | 埼玉県加須市北下新井461 | 大正14年(1925) | 石川意至推測 | 阿は鞠と遊ぶ子獅子、吽は背中に子獅子、手元に子獅子 |
上高柳諏訪神社 | 埼玉県加須市上高柳337 | 大正15年(1926)9月15日 | 石川意至 | 阿は鞠と遊ぶ子獅子、吽は背中に子獅子、手元に子獅子 |
前玉神社 | 埼玉県加須市根古屋476-1 | 昭和2年(1927)2月9日 | 石川意至 | 阿吽とも玉取り |
中ノ目八幡神社 | 埼玉県加須市中ノ目 | 昭和2年(1927)2月 | 石川意至 | 阿吽とも玉取り |
須賀神社(荒井一丁目) | 埼玉県北本市荒井1-353 | 昭和3年(1928)2月12日 | 石川意至 | 阿吽とも石台に手を置く |
南大桑・雷電神社 | 埼玉県加須市南大桑3478 | 昭和3年(1928)3月 | 石川意至 | 阿吽とも石台に手を置く |
八幡浅間神社 | 埼玉県加須市間口479 | 昭和4年(1929)4月15日 | 石川意至 | 阿は子獅子が手の下に、吽の子獅子は親の手から見上げる |
外田ケ谷・久伊豆神社 | 埼玉県加須市外田ケ谷 | 昭和4年(1929)4月15日 |
塩原鴻雲 石刻師
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吽は玉持ち、阿は石台置き。石川意至の狛犬に激似。弟子か、関係者か…? 石刻師と刻んでいることから石川意至の関係者だろう。 |
多賀谷神社 | 埼玉県加須市内田ケ谷 | 昭和7年(1932)5月 | 石川意至 | 阿吽とも石台に手を置く |
川圦(かわいり)神社 | 埼玉県加須市外野153 | 昭和7年(1932) | 石川意至推測 | 阿吽とも石台に手を置く |
常世岐姫神社 | 埼玉県行田市荒木5230 | 昭和8年(1933)4月 | 石川意至 | 阿は鞠と遊ぶ子獅子、吽は背中に子獅子、手元に子獅子 |
砂原・鷲神社 | 埼玉県加須市砂原2061 | 昭和15年(1940)5月 | 石川意至 | 岩の台の上に手を置くポーズ |
結構、多作の石工さんである。
それなりの工房を構えていたのだろう。
この表で見る「荒木天満天神社」の初期の狛犬は
それから以降に造られる狛犬とは顔・形がだいぶ違う。
近辺にあった狛犬や他の地方からの情報を
得ていろいろと試行錯誤しながら
自分なりのフォーマットが決まってきたのだろう。
石川意至の狛犬の特徴
見ていくと最初は自分のフォーマットが
決まっていなかったが、しだいと
形が決まり、大正の前期頃が、いちばん
脂が乗っていた頃なのではと思う。
それは子獅子の多さ、彫りの丁寧さが
見られるからである。
後期になると、体力の衰えか、
発注額が減ったのか? 子獅子を造らず
石の台に手をおくパターンが増えている。
(下、写真参照。南大桑・雷電神社の阿吽狛犬)
少々、手を入れることをセーブしている
姿がうかがえるのだ。
でも、石川意至さんの彫った狛犬は
この界隈では大変な人気だったのだろう。
というのも、石川狛犬に似た
石工さんもちらほら見かけるのだ。
たとえば、表内にある
外田ケ谷・久伊豆神社の狛犬。
これはてっきり、石川意至の狛犬かと思ったら
塩原鴻雲 という石工だった。
コメント欄にも書いたが、この方は、石刻師と
刻んでいるから石川意至の関係者に違いない。
他にも、この界隈には石川狛犬に似た
石工さんの狛犬は見かけるのだ。
いろいろと見回った結果、加須市近辺には石川意至のほか
腕を競い合ったと思われる名石工さんが数名いることが分かりました。
その件、別の時に記します。
玉敷神社の参拝
埼玉県加須市にある玉敷神社は
人気の神社である。
御朱印は月ごとに判子が異なり、
季節ごとに柄の異なる御朱印もある。
境内には大きなイチョウの御神木や藤棚があり
季節には彩りを添えてくれる。
拝殿の左側にある2本の大イチョウの木は
樹齢500年以上といわれる天然記念物で
すごい迫力がある。
なんだかんだと
僕は3度も来て参拝している。
狛犬もいいし、境内の雰囲気も好きなのだ。
神社の近くには、旧河野邸跡の庭も見られ、
玉敷公園もあるのでくつろげるのだ。
石川意至の狛犬を描く
キャンバスの上に粗くモデリングペーストを塗り
乾かす。そして、また狛犬の部分にさらに
厚み付けるためにモデリングペーストを塗り重ねる。
いままで、画材の下地材「モデリングペースト」を
意識なく記していましたが、
何も解説していなかったので、ここに書きます。
キャンバスに直接、絵の具を描く方法もあるが、
そのまま描くと、キャンバスの生地目が出てくる。
生地目を活かす描き方もあるが、生地目が嫌いな人もいる。
そこで、その生地目を隠して滑らかな表面にして
描く人がいる。その場合、ジェッソ(チタニウムホワイトと
炭酸カルシウム等の体質顔料をアクリルエマルジョンに
混合した白色の乳液状の液体)を塗る。
何度も塗り重ねると
キャンバスの目も目立たなくなる。さらに平らにしたい人は
サンドペーパーで磨いたりします。
僕の場合は、平らではなくゴツゴツしている感じが好きなので
モデリングペーストをキャンバスの上に塗り付ける。
種類もいろいろあるが、柔らかいものから、硬いものなど、
乾くとそのまま、塗った形状で固まってくる。
物質感や立体感を出したいときに使うといいのである。
モデリングペーストの材料は、アクリル樹脂と
大理石の粉末からできている。
モデリングペーストを塗るということは
結局、おおもとは大理石なので石を張り付けて
いるようなものなのだ。
最近、厚く塗ったモデリングペーストが
乾いたあと、僕は、彫刻刀で彫っていたりする。
石工さんに近づきたいのだろう。
といって塗るのも好きなので、
彫って削って、また、その上から絵の具で
描き上げる。
石工さんへの憧れがあるのかも知れない。
玉敷神社の阿形の狛犬は、
子獅子が鞠を持ち、その子の頭を
優しく手をかけるパターンの凝った造り。
石川意至狛犬でも、このパターンは
かなり力を入れて彫っているパターンなのだ。
普通は、単純に親が鞠を持つパターンが
多いからだ。
絵を描きながら、
石のように強い信念で
描き続けよう…石川意至の絵を描きながら
思うのだった。
ご拝読ありがとうございました。
題材の場所:
〇額にかかる毛が真ん中分け
〇目の上にかぶさるぐらいに毛がかかるので
奥目になる。影によっては情けないお顔に見える
〇鼻の穴が正面を向く。
鼻の穴は丸くよく見える。
〇全体的にはバランスのとれた顔立ち。
〇お顔の両脇と腰あたりに大きな渦巻き毛が
それぞれ3つ以上ある。
〇尾の毛が長く台座にかかる。