細山神明社・吽形狛犬

細山神明社・吽形狛犬
細山神明社・吽形狛犬

細山神明社(ほそやましんめいしゃ)へ行く

小田急線・読売ランド駅から

歩いて15分ぐらいのところに

細山神明社はある。

 

狛犬では有名な「たくきさん」の

ホームページを読んでいたら

神奈川県麻生区に興味ある狛犬があったので

よし、今度行ってみよう!と

Googleマップで確認していた。

横浜市麻生区辺り
横浜市麻生区辺りの地図

 

その行く途中にもいくつか

神社があったので

ひとつひとつクリックして

写真を確認していたら、

その中のひとつに、

とても、面白い顔をした狛犬が

いるではありませんか。

 

これは、ぜひ行ってみよう。

とある週の土曜日、

僕は車で朝早くから出かけた。

(ひとつ、ここで断りを入れておきます。

プロフィールにある徒歩での神社巡りは

最初は徒歩ばかりでしたが、

だんだんとレンタルサイクルを

利用したり、自動車を利用して

行動範囲を広げているのです。

健康のための徒歩・神社巡りだったのが、

だんだんと神社や狛犬回りに

熱が入ってしまって

健康より、早く見てみたい気持ちが先行して

移動手段はなんでもいいや、と

いうことになってしまって。 汗)

 

細山神明社は、階段を登って

鳥居をくぐると

おもしろいことに神社が足元に

広がって見えるのだ。

普通は見上げる位置にあるのに

ここは見下ろすかたちになる。

細山神明社を見下ろす
鳥居をくぐると拝殿は階段を降りた先にある。

この構造を逆さ大門(さかさだいもん)

言うらしい。

関東に三社あると細山神明社の

ホームページに書いてあるが、

あとの二社はどこだと調べても

どこにも記しているところがなかった。

訪問した皆さんもネットに上げて

いるのだが、誰も書いている人がいない。

皆んなコピペなのか???

誰か教えてもらいたい。

拝殿天井の絵馬
拝殿の中をのぞくと天井にはたくさんの絵馬が飾られていた。ガラスの反射で見づらいですが……。

神社情報

社号  神明社
祭神  天照大神
相殿  倉稲魂神、児屋根命、五十猛命、猿田彦命
境内社 –
祭日  7月18日
住所  川崎市麻生区細山2-6-1

 

細山神明社・鳥居前
鳥居両脇に立つ一対の狛犬。

さて問題の狛犬は、

この鳥居の近くにいた!!

「ひやーーっ。

こりや、たまらん。

阿形の顔もいい。

吽形のひょうきんな顔もいい!」

これを見たくて来たのだ!

狛犬は高い台の上にあって

見上げるようにしか見えない。

 

今回は、細山神明社の吽形狛犬

描くことにした。

ひしゃげたような大きな鼻。

キョトンとした丸い目。

ひじょうにおもしろい顔だ。

実物は、顔の表面や

肌に細かな筋が入っているのだが

絵は省略。

細山神明社・吽形狛犬

愛嬌ある顔に仕上げたつもり、、。

この絵をイーゼルに

立て掛けていたら、

娘が前を通って言った。

「これ、ブサカワだねぇ。」

と言って手に持っていた

スマホで写真を撮って行った。

写真をなんに使うのやら……。

 

そうです。

ブサカワがいいのです。

なんというのかな、

こうゆうのが好きな

自分がいるのです。

 

で、最初に行きたかった

麻生区の神社はまた別の機会に

記します。

 

吉澤耕石(よしざわこうせき)とはなんだ?

 

細山神明社の狛犬は

「吉澤耕石」の作品だ。

吉澤耕石と書かれた台座
吉澤耕石と書かれた台座

僕はそれからいくつか神社を

まわって、そこで何度となく

「吉澤耕石(よしざわこうせき)」の名を見ることになる。

それだけ、この界隈では多いのだ。

 

でこの人を語れば

あと、もう一つ。

「内藤慶雲(ないとうけいうん)」の名も挙げなけれは

なるまい。

 

この両者、ライバル関係だったのだ。

登戸の「吉澤耕石」

溝の口の「内藤慶雲」

江戸の後期から明治、大正、昭和にかけて

とても人気があり、両者は競い合ってた

石工なのだ。

 

どちらも多摩川沿いにあるが、

なぜこの地にあったかというと、

当時、伊豆地方で削りだされていた石

(伊豆石※)を船で運搬していたが、

江戸方面へ運ばれ荷を下ろす場所が、

多摩川を登ったこの辺りだったからだ。

※伊豆石は江戸城の石垣に重宝された。

で、「たくき」さんの「内藤慶雲物語」

正しいとすると(この話、推理も

入っているので、信憑性はよくわからないが)

最初にこの辺りで石工として

名をあげていたのは

吉澤家のほうだったのかな。

内藤慶雲は、その吉澤家に

負けじと奮闘して

両ブランドとして確立していった。

まあ、いずれにしても

どちらも当時は評判の石工ということだ。

「内藤慶雲」の話は

ひじょうにおもしろい話です。

今回は置いておいて

別のときに語るとする。

 

「吉澤耕石」のことだが、

なんと、現在でも川崎登戸で

石材店を行っている「吉澤石材店」

先代の名前なのだ。

「吉澤石材店のホームページ」こちら。

吉澤石材店は

寛政年間に始まったと

現在の代表・吉澤光宏さんの言葉。

200年以上も歴史が続いているのである。

 

なので、

初代から始まり、

少しずつ拡大していき、

だんだんと職人をやとい

石材店を広げていったのだろう。

ということは、

吉澤耕石と言っても

代々受け継がれた人が

石を彫っていたということで、

何人もいたということだ。

おそらく親方に認められた

弟子たちの何人かが「吉澤耕石」という名を

受け継いでブランドとして

作品を残していったのだろう。

 

だから、時代によって

基本形(江戸尾流れ)は同じとして、

(どちらかというと顔の横幅が

広がったのが多いかも……)

個々をよく見ると

まったく異なった表情の狛犬が

あるのだろう。

 

今回、見た神明社の狛犬は

「吉澤耕石」のなかでも

かなりユニークな作品では

ないだろうか。

 

そこで「吉澤耕石」の作品が

どこにあるか調べてみた。

ネットではあちこちに出てはくるのだが

個別に書いていて、

まとまっているのがなかなか

見つからない。

 

分かりやすいように

年代別にまとめてみた。

収集に手間取りますねぇ。

まだ、僕の行ったことのない場所も

かなりあるので、今後の見学という

意味でここにまとめます。

 

吉澤氏の彫った狛犬のある神社(寺院)と場所、作成年をまとめた

 

神社(寺院)名 住所 奉納年(月日) 石工 備考(メモ)
高石山法雲寺 馬頭観音像

(たかいしやまほううんじ ばとうかんのんぞう)

神奈川県川崎市麻生区高石2-6-1 安政六年(1859年)8月 吉澤藤三光信 安政の頃に彫った吉澤氏の作品。

初期の頃の吉澤氏か。

秋葉大権現

(あきばだいごんげん)

神奈川県川崎市麻生区上麻生6-34-1 明治23年9月24日 吉澤藤吉 藤吉という名である。
高石神社

(たかいしじんじゃ)

神奈川県川崎市麻生区高石1-31-1 明治43年9月 吉澤耕石 猿っぽい狛犬。

この辺りから吉澤耕石という名で出てくる。

法雲寺 本堂前の狛犬

(ほううんじ ほんどうまえのこまいぬ)

神奈川県川崎市麻生区高石2-6-1 大正2年9月吉日 吉澤耕石
烏山神社

(からすやまじんじゃ)

東京都世田谷区南烏山2-21-1 大正7年(1918年)11月 吉澤耕石
厳嶋神社

(いつくしまじんじゃ)

東京都調布市西つつじヶ丘1-15-8 大正8年(1919年)1月 吉澤耕石
六所神社

(ろくしょじんじゃ))

東京都世田谷区給田1 大正8年11月23日 吉澤耕石
上祖師谷神明社

(かみそしがやしんめいしゃ)

東京都世田谷区上祖師谷4-19-24 大正9年4月 吉澤耕石 江戸尾流れ、目が寄り気味の幅広顔
三輪熊野神社

(みわくまのじんじゃ)

東京都町田市三輪町1925 大正15年 吉澤耕石
細山神明社

(ほそやましんめいしゃ)

神奈川県麻生区細山2-6-1 昭和3年11月 吉澤耕石 願主 箕輪政次郎
喜多見氷川神社

(きたみひかわじんじゃ)

東京都喜多見4-26-1 昭和3年(1928年) 吉澤耕石
祖師谷神明社

(そしがやしんめいしゃ)

東京都世田谷区祖師谷5-1-7 昭和6年11月吉日 吉澤耕石 目がでっかくひょうきん
驚神社

(おどろきじんじゃ)

神奈川県青葉区新石川町1ー24ー9 昭和9年10月(1934) 吉澤耕石
岡上神社
(おかがみじんじゃ)
川崎市麻生区岡上809 昭和32年 台座に昭和三十二酉年、施工登戸吉澤石材店と彫字がある。 最近の吉澤石材店の作品。

※住所をクリックするとGoogle Mapsで場所を表示します。


 

細山神明社の狛犬は

昭和3年の作品だ。

どちらかというとわりと

新しいほうではある。

昭和3年は、喜多見氷川神社にも

狛犬がある。

ネットで確認すると

比較的表情にひょうきんさは

少しあるが通常の表情に近い。

こちらは、顔よりも

毛の流れの彫り筋の

しなやかさに目が行く。

同じ人が彫ったのか、

別の人が彫ったのか、

分からないが、

ひょうきんさで見れば

細山神明社だ。

昭和6年に作られた

祖師谷神明社の狛犬は

目ン玉がでかくて

ひょうきんさがあるので

この辺りが同じ作者かも

知れない。

いずれにせよ

吉澤耕石の中には

いろいろな表情の

狛犬があるが、

ここの細山神明社の狛犬は

吉澤耕石ブランドの中では

珍しくよく出来た

おもしろい作品だと思う。

 

まだ、行っていない

神社もあるので

吉澤耕石ブランドを

見比べて見学する

楽しみが増えて嬉しい

僕でした。

 

吉澤耕石さん

楽しみをありがとう。

 


番外:

吉澤石材店、社長のブログの中で、

こんな言葉がある。

「曾祖父が手掛けた石造物は、近隣各地に『吉澤耕石』の銘が入り存在
けれど若くして戦死した祖父の名、『吉澤藤三』が刻まれた石造物は、残念ながら見かけることがありません。」

石工であった社長のお父さんのお父さんは、

戦争のために駆り出され

亡くなったとのこと。

唯一残った祖父の残した

石の狛犬を触ると祖父に触れることができる、と。

ああ、なんて哀しい話なのでしょう。

吉澤石材店さん、頑張ってください。


取材の場所: