真夜中の電話
九州に住んでいる兄嫁から夜中突然、携帯に電話があった。
「見つからんに。駄目かもしれん」
慌てた声だった。
どうしたのだと眠りにつきかけた布団からとび起きて答えた。
夕方、登山から帰る予定なのに、帰らんから、警察に電話した。
それから警察やら消防団で夜、不明になった辺りを探したが、
夜遅くなったのでまた明日の朝から捜索が始まる、とのことだった。
夜になって気が付いた。そうや、弟さんにも
電話しないと気付いて、今の時間になった、ごめん、ということだった。
兄は、定年退職後、なぜか山を登るのが趣味になって
しょっちゅう山を登っていた。
近場の山はほとんど登っていただのではないだろうか。
話を聞くと、今回登ったのは生まれ故郷の裏山、
低山である。いままで、いろんな山を登ってきた兄貴である。
そんな低山で見当たらないということが信じられなかった。
「大丈夫。まだ、駄目とは決まったわけじゃない」
明日を待とうと、兄嫁を落ち着かせために
そして自分自身を落ち着かせるために
強い声で言って電話を切った。
滑 落
日曜の朝から起きてテレビをつけて
見ていたが、兄貴のことが気になって情報は入っこなかった。
昼に兄嫁から電話がかかった。
「駄目だった…。見つかったんやけど…」
登山道からだいぶ離れたところの斜面で倒れていたらしい。
道に迷ったのかもしれない。
一晩どこか安全な場所で
じっと待機している様を想像していたのだが、
電話から聞こえた声は、悲しい現実だった。
警察まで運ばれ検死が始まるとのことだった。
多くの方の捜索の協力で見つかったので
それは感謝しきれない。
この場でありがとうございました、と言いたい。
以降、文章は関係者配慮のため一部、削除いたしました(2022/10/19)
最期に見た風景
今回の絵は、
兄貴が最後に登った山の頂上から見た風景である。
今まで何回も登っている山である。
兄貴のfacebookを見てみると
その山から見た風景の写真がいくつかあった。
山から見下ろした彼方には
海が見え、その海に
ぽっかり「おにぎり」ような島が浮かぶ風景だ。
たぶん、兄貴はこの風景を見てから
山を下ったはずである。
イメージが先行した絵であるが
兄貴が「最期にみた風景」を想像して
無心になって描いてみた。
どうかやすらかに、という思いでしたためた。
命というもの、ほんと
人生、いつ終えるか分からない。
ほんと思い残すことがないよう、
やるべきことをやらなくては、
あっという間に過ぎてしまうということだ。
悔いのない生き方をしなくては…。
まだまだ描き足りない、そう思うのだった。